事業場外みなし労働時間制とは、労働者が業務の全部または一部について事業場外で従事し、使用者の指揮監督が及ばないために当該業務についての労働時間を算定することが困難な場合に、使用者がその労働時間についての算定義務を免除し、その事業場外時間については「特定の時間」を労働したものとみなす制度のことを言います。例えば所定労働時間を8時間と定めれば、何時間働こうと8時間労働したものとみなされることになります。事業場外みなし労働時間制は、長時間労働や実質上のサービス残業の温床になりかねないことから、適用に当たっては、事業場外で業務に従事し、且つ、使用者の指揮監督が及んでいないことの両者の要件を充足する必要があるます。事業場外の労働であっても、使用者の指揮監督が及んでいれば労働時間を把握できるので、この制度の対象にはなりません。
それでは事業場外みなし労働時間制が採用された場合、残業代(時間外労働賃金)は発生しないのでしょうか。例えば所定労働時間を9時間と定めていれば、労働基準法の上限の8時間を1時間超過しているので1時間分の残業代を支払う必要があります。ところが、所定労働時間が8時間とされているのであれば、法定労働時間未満なので残業代は支払われない、ということになります。しかしこの結論は明らかに不当です。
これでは事業場外みなし労働時間制は残業代を支払わないための方便に利用される可能性があるからです。したがって残業代を請求する場合には、そもそも事業場外みなし労働時間制を適用できない(無効である)と主張する方法が考えられます。しかしこれは退職を前庭にした主張なので、現実的には困難と言わざるをえません。